社会保険労務士に関わる法律を押さえておこう
社会保険労務士に関わる法律を押さえておこう
特定社会保険労務士とは
平成19年4月に、特定社会保険労務士制度が新設されました。
特定社会保険労務士とは、1号業務と2号業務、3号業務に加え、司法業務も行える社会保険労務士のことです。
社会保険労務士の司法業務というのは、労使間の紛争を解決する業務のことで、具体的には、賃金の不払いや従業員の不当な扱いなどのトラブルが生じたときに労使間に入ってトラブルを解決していきます。
この法律が制定されるまでは、司法業務は社会保険労務士の資格では行うことはできませんでした。
特定社会保険労務士の必要性が叫ばれたのは、個別労働紛争が増えてきたためです。
給与や残業代の不払い、年次有給休暇の未取得、男女雇用均等法に抵触する問題など、労働関係のトラブルが増えてきたため、労働関係に通じた社会保険労務士に、その解決を新たな役割として求めたのです。
特定社会保険労務士の司法業務は、別の言い方をすると、雇用主と従業員の間でトラブルがあったときに、費用や時間をあまりかけずに解決する業務ということです。
もし、このトラブルを解決する手段として裁判になってしまうと、必要な費用や時間が大きな負担となってしまうということがあるのです。
特定社会保険労務士となるには、通常の社会保険労務士試験に合格したうえで、社会保険労務士会の特別研修を受講して、紛争解決手続代理業務試験にパスしなければなりません。
この試験に不合格、もしくは試験を受けなかった場合は、当然、特定社会保険労務士の資格は与えられません。
社会保険労務士法違反と罰則
社会保険労務士法には、違反した場合の罰則についても規定されています。
まず、社会保険労務士は不正行為の指示が禁止されており、これに違反した場合は3年以下の懲役、または200万円以下罰金が課されることになっています。
信用失墜行為については、懲戒処分の対象とはなるものの、とくに罰則はありません。
また、紛争解決手続代理業務以外は依頼に応ずる義務があり、違反した場合、100万円以下の罰金が課されます。
守秘義務についても規定があり、これに違反すれば、1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金が課されます。
また、特定社会保険労務士については、紛争に関わった、または両者の利益に相反するような事件は、取り扱うことができないとしています。
ほかに、非社会保険労務士との提携の禁止も規定されています。
つまり、事件のあっせん、名義貸しの禁止で、これに違反すると、1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金が課されることになるのです。
社会保険労務士法に違反した場合は、懲戒処分を受けることもあります。
故意または相当の注意を怠った場合には、厚生労働大臣により懲戒処分に処されることになります。
懲戒処分の種類としては、戒告、1年以内の業務停止、失格処分(3年経過後に資格再取得)があり、故意の場合、1年以内の業務停止または失格処分となり、相当の注意を怠った場合は、1年以内の業務停止または戒告となります。
そのほか、虚偽記載、諸法令違反、重大非行があった場合は、厚生労働大臣によって懲戒処分を受けることになります。
社会保険労務士法の問題
社会保険労務士の仕事のうち、最近では、行政官庁への届出書や申請書の作成業務にはじまる関係書類の作成業務や、それらの書類を事業主に代わって行政官庁に届けたりする代理・代行業務などが減ってきて、3号業務といわれる労働コンサルティング業務の比重が増えてきています。
これは、オンラインシステムの導入など電子化の影響で、今まで社会保険労務士が行ってきた業務が、事業所の内部で処理されはじめてきたためでもあります。
また、関係書類の作成業や代理・代行業務は、本来は、社会保険労務士の独占業務でしたが、規制緩和によって、社内でも処理できるようになってきたためでもあります。
もともと社会保険労務士制度が生まれたのは、事業所などにおいて労働保険や社会保険に関わる煩雑な業務を効率的にかつ合理的に処理できる専門家が必要とされたためでした。
本来、事業所内の総務部などが行う業務と重複する部分が多かったわけです。
さらには、最近では、その業務の垣根などが明確にされていない場合は、人材派遣会社などによる社会保険労務士の業務の侵害などもみられてきています。
要するに、規制緩和の導入が、法律で規制されている社会保険労務士の業務をなし崩し的に侵害してきているということです。
社会保険労務士には、不正行為指示の禁止や守秘義務などの規制もあるため、このような規制緩和の導入は、今後、不正申告の防止やプライバシー保護などについて問題が生じるおそれもあります。
さらに、社会保険労務士の業務の一部は、税理士など近隣士業の業務との線引きが明確にされていないため、規制緩和の導入によって、さらに明確な住み分けなどができない状態となっていき、それについての論議などもなされていくでしょう。
「税理士」という日本では歴史のある士業が中小企業にしっかり入り込んでいるため、後発組の社会保険労務士は後手に回ることが多いのです。
本来なら、社員の入社・退社の手続きは社会保険労務士のストライクの代行業務なのですが、税理士が代行で手続きするなどといったことが起こっています。
団体を通じた駆け引きはあるものの、歴史のある税理士に押され気味である感は否めません。